多くの生徒に就《つ》くことなどが鬱陶《うっとう》しいなら、生徒に接しなくとも好いのです」
というように岡倉氏は説いていられる。岡倉氏の説明するところはなかなか上手《うま》いので、私に嫌《いや》といわさないように話しを運んでいられる。氏はさらに言葉を継ぎ、
「それで、あなたがお宅の仕事場でやっていられることを学校へ来てやって下さい。学校を一つの仕事場と思って……つまり、お宅の仕事場を学校へ移したという風に考えて下すって好いのでそれであなたの仕事を生徒が見学すれば好いのです。一々生徒に教える必要はないので、生徒はあなたの仕事の運びを見ていれば好いわけで、それが取りも直さず、あなたが生徒を教えることになるのです」
という風に話されるので、自分のことを私がいおうと思えば、先を越していってしまってどうにも辞退の言葉がないような有様になりました。
「お話はよく分りました。そういうことなら私にも必ずしも出来ないこととは思いませんが、私には、現在、いろいろ他から引き受けてやっている仕事がありますので、仮りに学校の方でお世話になるとしても、二、三ヶ月後のことでないと困ります」
 こういいますと、岡倉氏は
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