》の目貫《めぬき》の場所は神田|明神《みょうじん》の祭礼でありました(その頃は山王と明神とは年番でありました。多分、その年は神田明神の方の番であったと思います)。それで私は家のものを伴《つ》れてお祭りを見に日本橋の方へ行っておりました。
 午後三時頃、空模様が少しおかしくなって来たので、降らない中にと家に帰りますと、ぽつりぽつりやって来ました。好い時に帰って来たよといってる中に、風が交って雨は小砂利《こじゃり》を打《ぶ》っつけるように恐ろしい勢いで降って来ました。四方《あたり》は真暗になったままで、日は暮れてしまって、夜になると、雨と風とが一緒になって、実に恐ろしい暴風雨《あらし》となりました。その晩一晩荒れに荒れて翌日になってやっと納まりましたが、市中の損害はなかなかで近年|稀《まれ》な大あらしでありました。何処《どこ》の屋根|瓦《がわら》も吹き飛ばされる。塀《へい》が倒れ、寺や神社の大樹が折れなどして大あらしの後の市中は散々の光景で、私宅なども手酷《てきび》しくやられました。が、まず何より心配なのは佐竹の原の大仏のこと、昨夜の大あらしにどうなったことかと、私は起きぬけに佐竹の原へ行
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