えるものだろうと思いましたので、上野の山へ行って見ました。ちょうど、今の西郷さんのある処が山王山で、其所《そこ》から見渡すと、右へ筋違いにその大仏が見えました。重なり合った町家の屋根からずっと空へ抜けて胸から以上出ております。空へ白い雲が掛かって笊を植えた大きな頭がぬうと聳《そび》えている形は何んというて好《い》いか甚だ不思議なもの……しかし、立派な大仏の形が悠然《ゆうぜん》と空中へ浮いているところは甚だ雄大……これが上塗《うわぬ》りが出来たらさらに見直すであろうと、一層仕事を急いで、どうやら下地《したじ》は出来ましたので、いよいよ、左官与三郎が塗り上げましたが、青銅の味を出すようにという注文でありますから、黒ッぽい銅色に塗り上げると、大空の色とよく調和して、天気の好い時などは一見銅像のようでなかなか立派でありました(この大仏に使った材料は竹と丸太と小舞貫と四分板、それから漆喰だけです)。
「どうも素晴らしいものが出来ましたね。えらいものを拵えたもんですね」
など見物人は空を仰いでびっくりしております。正味は四丈八尺ですが、吹聴《ふいちょう》は五丈八尺という口上、一丈だけさばを読んで奈
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