或る日、私は、どんなことになるかと心配だから仕事の現場へ行って見ると、これはどうも驚いた。まるで滅茶々々なことをやっている。これには実に閉口しました。

 大工や仕事師は、どんなことをしているかというに、まるで仕事師が役に立たない。先には苦もないようなことをいっておったが、実際に臨んでは滅茶々々です。また、兄貴の大工の方も同様でまるでなっていないのです。たとえば、大仏が膝を曲げて安坐をしているその膝頭《ひざがしら》がまるで三角になっている。ちっとも膝頭だという丸味が出来ておりません。印を結んだ手が手だか何んだか、指などは分らない。肩の丸味などはやはり三角で久米《くめ》の平内《へいない》の肩のよう……これには閉口しました。
「これはいけない。こんなことは雛形にない」
と私がいうと、
「どうも、こうずう[#「ずう」に傍点]体《たい》が大きくては見当が附きません」
 仕事師も、大工も途方に暮れているという有様……そこでこのままで、やられた日には衣紋竿《えもんざお》を突っ張ったような大仏が出来ますから、私は仕事師、大工の中へ這入《はい》って一緒に仕事をすることに致しました。
「私のいうよ
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