になって来ましたが、大仏の例の螺髪《らはつ》になると、ちょっと困りました。俗に金平糖《こんぺいとう》というポツポツの頭髪でありますが、これをどうやって好《い》いか、丸太を使った日には重くなって仕事が栄《は》えず、板ではしようもない。そこで、考えて、神田の亀井町には竹笊《たけざる》を拵える家が並んでおりますから、其所《そこ》へ行って唐人笊《とうじんざる》を幾十個か買い込みました。が、螺髪の大きい部分はそれがちょうどはまりますけれども、額際《ひたいぎわ》とか、揉《も》み上げのようなところは金平糖が小さいので、それは別に頃合《ころあ》いの笊を注文して、頭へ一つ一つ釘《くぎ》で打ち附けて行ったものです。仏さまの頭へ笊を植えるなどは甚だ滑稽《こっけい》でありますが、これならば漆喰の噛《かじ》り附きもよく、案としては名案でありました。
「やあ、大仏様の頭に笊が乗っかった」
などと、群衆は寄ってたかって物珍しくわいわいいっております。突然にこんな大きなものが出来出したので、出来上がらない前から人々は驚いているという有様でありました。
或る日、私は、遠見《とおみ》からこれを見て、一体どんな容子に見えるものだろうと思いましたので、上野の山へ行って見ました。ちょうど、今の西郷さんのある処が山王山で、其所《そこ》から見渡すと、右へ筋違いにその大仏が見えました。重なり合った町家の屋根からずっと空へ抜けて胸から以上出ております。空へ白い雲が掛かって笊を植えた大きな頭がぬうと聳《そび》えている形は何んというて好《い》いか甚だ不思議なもの……しかし、立派な大仏の形が悠然《ゆうぜん》と空中へ浮いているところは甚だ雄大……これが上塗《うわぬ》りが出来たらさらに見直すであろうと、一層仕事を急いで、どうやら下地《したじ》は出来ましたので、いよいよ、左官与三郎が塗り上げましたが、青銅の味を出すようにという注文でありますから、黒ッぽい銅色に塗り上げると、大空の色とよく調和して、天気の好い時などは一見銅像のようでなかなか立派でありました(この大仏に使った材料は竹と丸太と小舞貫と四分板、それから漆喰だけです)。
「どうも素晴らしいものが出来ましたね。えらいものを拵えたもんですね」
など見物人は空を仰いでびっくりしております。正味は四丈八尺ですが、吹聴《ふいちょう》は五丈八尺という口上、一丈だけさばを読んで奈
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