幕末維新懐古談
聖上行幸当日のはなし
高村光雲
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)肌《はだ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)古代|裂《ぎれ》
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さて、当日になりました。
午前中に準備に取り掛かる。
濤川惣助氏の無線七宝の花瓶というのは、高サ二尺、胴の差し渡し一尺位で金属の肌《はだ》の上に卵色の無線の七宝が施されたもので、形は壺形《つぼがた》をしている。その鮮麗さは目も覚《さ》めるばかりです。
そうして、私の矮鶏《ちゃぼ》はその右側に置かれました。
大きな硝子箱の中に古代|裂《ぎれ》の上に据えた七宝と、白絹の布片《きれ》の上に置かれた鶏とはちょうど格好な対照であった。自分ながら幹部の人々の趣向の旨《うま》いのに感心した位であった。
いよいよ、聖上行幸に相成りましたので、幹部の人たちは御迎えを致し、御巡覧の間我々|平《ひら》の審査員は休憩室の方へ追い出され、静粛にしておりました。
すると、やや暫くして、会場の方に当って、塩田真《しおだまこと》氏が擦《す》り足であっちこっちを駆けているのがこっちから見えました。その容子
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