は何か俄《にわか》に探し求めている風……どうしたのだろうなど他の人もいって不思議な顔をしている処へ、塩田氏が駆けて来た。
 そうして、私の顔を見附けるなり手招きする容子がいかにもあわただしい。
 私が側に行くと、
「君、あの矮鶏はおよそ幾日位で出来ますか」
と、いきなり変な質問、幾日で出来るといって貴下《あなた》もこれは御存じのことでしょう。二年越し掛かったのです。と、いうと、
「あれは、もう一つ同じのが出来ますまいか」
と塩田氏は重ねていう。私は、何をこの人はこの際こんなことを自分に訊《き》くのかと思った。
「もう一つ同じものは出来ません。丸一年も精根をからしてやったものです。もう一度同じようなものを気息《いき》をくさくしてやる気はありません」
「どうも始末が悪いな。困ったな。……実は君のチャボが聖上のお目にとまったのだ」
といったなり、塩田氏はばたばたと駆けて行ってしまった。

 やがて、聖上には御還御に相成りました。
 で、私は会場に参り、前約通り、もはや用済みのこと故、自作を持って帰るつもりで行くと、会頭初め幹部の人々が立っていて、
「ちょっと、俟《ま》って下さい」という。松尾
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