時宣《じぎ》に依《よ》ってかまわぬことでもあろうが、若井氏は商売人である。商売用のためにこの作を特に私に依嘱したものとすれば、注文主に断わりなしでこれを公衆の前に発表することはどんなにその人の損害となるかも分らぬ。この事をば私は附け加えて出品の出来ない埋由をいったことであった。

 それでも幹部は承知せず、若井氏へ人を遣《や》ったが、ちょうど若井氏は上方《かみがた》へ旅行中で、旅行先の宿所へまで手紙を出して問い合せたが、商用で転々していたものか何んの返事もありませんでした。
 それで私の作を出す出さない件は行き悩んだなりになっており、私は残った仕事を続け脚の方を仕上げていました。
 その内開会の日は来てしまって、常例の通り何時何日《いついくか》には、聖上の行幸があるという日取りまで決まりました。
 すると、或る日、幹事から私を呼びに来ました。
 出て見ると、幹部の人のいうには、
「高村さん、あなたも御承知の通り、いよいよ明後日は聖上の行幸ということになりました。ついては本会の光栄として、特に天覧に供するものがなくてはならないのですが、それについて、いろいろ協議の結果、濤川惣助《なみかわ
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