ありましたが、しかし、なまけていなかったという言葉の偽《うそ》でないことが分れば、それで私は好《い》いのでしたから、別にいうこともありませんでした。
 すると、幹部の人から、
「どうでしょう。折角これほどに出来たものを今度の展覧会に出品しないで、直ぐに若井の手に渡すのは余り惜しい。一つ出すようにしては頂けませんか」という声が起ると、一同またそれを賛成したものです。
「それは困ります」
 私はそう答えるよりほかありませんでした。ただそういっただけでは承知されないから、若井氏と私との間にこの作をした事情を掻《か》い摘まんで話して、こんな訳ですから、とても出品するわけに行かない旨を述べました。
「若井の方へは会から話をします。これは是非出すことにして下さい」
 こう幹部の方はいっている。
 私はこの作を終って若井氏の手元に届けさえすれば私の役目は済むことで、後は出すとも出さないとも若井氏の随意であることを述べ、私一己の考えとしては、どうしても若井氏に対して出品出来ないことをいい張りました。
 これは、注文者がもし素人《しろうと》の数寄者《すきしゃ》とでもいうのであれば、あるいはそうすることも
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング