やっておられたのですか。君が矮鶏を拵えたと聞くと、これはどうも拝見しないわけには行かん。一つその新作を見せて頂こう」
ということになりました。
 私の、証拠を挙げて申し開いた以上、証拠物件を望まれて見せないわけに行きませんから……また私としてもこれらの幹部の識者の批判を受けることは望ましくないことでありませんから、まだ脚の方のつなぎを切ったりしない九分通り出来ている矮鶏の作を次の日の集まりの席へ持って行きました。

 私が人々の前で、風呂敷の中から矮鶏を出して、机の上へ飾って見せました。
「これは面白い」
「こいつは素晴らしい」
などいう声が人々の口から起りました。
 この席上には会頭もおられましたが、
「これはどうも傑作だ」
といって乗り出して見ておられました。
「なるほど、こんな大仕事を君は黙ってやっていたのですか。それを怠けていたなどと仮りにもいった人は失言だね」
など笑っていっていた人もあった。
 とにかく、私の製作はこの席上の人すべてが賞讃しているように私には見えました。
 私は、作の上についての非点を聞きたいつもりであったのに、皆からただほめられて少し気抜けがしたような形でありましたが、しかし、なまけていなかったという言葉の偽《うそ》でないことが分れば、それで私は好《い》いのでしたから、別にいうこともありませんでした。
 すると、幹部の人から、
「どうでしょう。折角これほどに出来たものを今度の展覧会に出品しないで、直ぐに若井の手に渡すのは余り惜しい。一つ出すようにしては頂けませんか」という声が起ると、一同またそれを賛成したものです。
「それは困ります」
 私はそう答えるよりほかありませんでした。ただそういっただけでは承知されないから、若井氏と私との間にこの作をした事情を掻《か》い摘まんで話して、こんな訳ですから、とても出品するわけに行かない旨を述べました。
「若井の方へは会から話をします。これは是非出すことにして下さい」
 こう幹部の方はいっている。
 私はこの作を終って若井氏の手元に届けさえすれば私の役目は済むことで、後は出すとも出さないとも若井氏の随意であることを述べ、私一己の考えとしては、どうしても若井氏に対して出品出来ないことをいい張りました。
 これは、注文者がもし素人《しろうと》の数寄者《すきしゃ》とでもいうのであれば、あるいはそうすることも
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