幕末維新懐古談
矮鶏の製作に取り掛かったこと
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)稀《まれ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その時|御意《ぎょい》に
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 かれこれ批評を聞いたり、姿形を研究したりしている間に、一月余りも経ってしまいましたので、いよいよ取り掛かることにしました。
 材は桜です。その時分はまだ桜の材で上等のものが沢山あったが現今では甚だ稀《まれ》です。南部の方から出るのが良材であります。まず、雄鶏《おんどり》の方から初めました(木彫りの順序は鑿打ちで形を拵え、鑿と小刀で荒彫り、それから小作り、仕上げとなる)。無駄をしていたわけではないが、前述のような次第で思わず時日を費やしたので、随分精出してやりましたけれども、その年の十二月の末になってやっと小作りが出来た位でした(仕事の順序からいうと、この小作りというのは荒彫りと仕上げの間となる)。十二月の末といえば若井氏と約束の日限でありますから、当然《あたりまえ》ならば全部出来上がっていなければならない所であるが、器械的の仕事と違ってこういう側の仕事は、そう日限通りに
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