遅れた旨をお詫《わ》びし、手附けの金をお返しして一時前の契約を解いて頂き……彫りかけては置きません、いずれ仕上げます。出来上がれば是非御覧に入れます、その時|御意《ぎょい》に入ったら御取り置き下さい。とにかく、御約束を無にしたのは私が悪いのですと若井氏へ申し納《い》れました。
 若井氏は私の申し納れを大分不機嫌な顔をして聞いておりましたが、その話はそれとして、何よりまずその荒彫りを見せて頂こうといいますから、私は風呂敷を解きました。
 すると、中から彫刻の矮鶏が出て来たので、若井氏はそれを見ていましたが、急に機嫌が直ったような様子になった。
「どうも、これはおもしろい。これはよく出来ました」
 そういって感心したような顔をしている。そして手に取って打ち返しなどして視《み》た後で、
「高村さん、あなたのお話はよく分りました。ですが、私はお約束を解きませんよ。博覧会の日限は一月の船が積み切りで、もはや間に合いません。しかし、それは、それでよろしゅうございます。今後、あなたが何時《いつ》これをお仕上げになるか分らんが、この矮鶏は出来次第私が頂戴することに願います。それから、此金《これ》は、木
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