《こまごめ》千駄木《せんだぎ》林町の植木《うえき》氏という人であった。
 私は直ぐその人を訪問しました。ちょうど、現在の私の宅と同町内で、その頃|長寿斎《ちょうじゅさい》という打物《うちもの》の名人があった、その横丁を曲がって真直突き当った家で、いろいろ家禽《かきん》が飼ってあった。

 植木氏に逢って、これこれと話をすると、同氏は暫《しばら》く考えて、矮鶏の見本として上乗のものがある、という事。それは何処にありますかと訊《き》くと、自分の宅にある。が、しかし、それは、世間でおもちゃにして飼っている矮鶏とは異《ちが》って、本当の矮鶏で、自分が六代生まれ更《かわ》らせて、チャボの本種を作り出そうと苦心して拵《こしら》え上げたもので、これ以上本筋のチャボはない。世間で一升|桝《ます》に雄雌|這入《はい》るのが好いとか、足が短くて羽を曳《ひ》くのが好いとかいうのは、これは玩具《おもちゃ》で、いわば不具同様、こんなのは矮鶏であって、矮鶏ではない。今、それをお目に掛けようといって、主人は書生に命じてその雄雌のチャボを私の前へ持って来させました。

 見ると、これが矮鶏かと思うような鶏《とり》であ
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