やって頂きたいとくれぐれもいわれる。
それで、日限は今年の暮一杯。これは掛引のない処で、実は来年の四月博覧会が開かれるので日本からは一月に出る船が積み切りだから、是非ともそれまでに間に合わせてくれということであった。
当時の私は相当世にも知られ初めて来ていましたが、まだそう仕事が沢山にあるという時ではない。現にその道の若井氏さえまだ私の存在を知らなかった位ですから、仕事の手は充分|開《あ》いています。それで、自分に出来る仕事ならば引き受けるつもりであるから、同氏の懇請に対して、私は、やれるだけやって見ましょうと引き受けたのでありました。
帰る時に、若井氏はこれで材料でも買って下さい、また入用があったら何時《いつ》でも差し上げますといって紙包みを私に渡しました。私は製作に掛かってから頂きますといっても、それでは頼んだ主意が立たないからといって聞かないので、それを持って帰りました。家に帰って見ると、五十円包んでありました。その当時のことで、仕事の前にこれだけのことをするはその人の気性《きしょう》にもよりますが、製作を要求した同氏の心持が察せられますので、私も充分に力を入れようと思っ
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