玉山氏が特に私を若井氏に引き合わせたことには理由があったのでした。
これより先、若井氏は或る目論見《もくろみ》のために各種にわたった作品を各名手の人々に依嘱していたのであったが、蒔絵《まきえ》、彫金、牙彫のような製作はすべて注文済みとなり、作品も出来上がった物もあったが、ただ、一つ木彫りだけが残っていた。それで木彫りの方を誰に頼もうかということをその席で旭玉山氏に相談をされたのであった。
玉山氏は木彫りの方なら高村光雲氏にお頼みすればよろしかろうと答えましたが、若井氏が少しも高村のことを知らないで、何処《どこ》にその人はいるかとの質問に、何処にいるかといってその人は協会員で来ておられるというと、では早速逢いたいというので、玉山氏が若井氏を私に紹介したようなわけです(このことは後で知ったことですが)。
若井氏は私に逢うと、一つ木彫りをお頼みしたいのですが、詳しいことは拙宅でお話したいと思いますから、明晩お出《い》で下さるわけに行くまいかとの事。
それで私は南鍋町の若井氏宅へ出掛けて行きました。
道具商といっても若井氏の宅には商品などは店に飾ってはなく、立派なしもた屋である。
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