くこれは貴方《あなた》のお丹精の賜《たまもの》です」
「それは何より結構……狆を拵《こしら》えてお出でですね。狆とはまた珍しいものですね」
「実は皇居御造営の御仕事を命ぜられましたので、狆の製作を仰せつかったような訳ですが、これは狆と見えましょうかね。物が物なので、このモデルにする狆を探すのに大骨折りをして、初めた所ですが、どんなものでしょう。狆と見えますかね」
 私は狆の見本を得ることに困難した話などしながら、出来掛かった彫刻を合田氏に見せている。合田氏は黙って私の製作を眺めていました。
「なるほど、彫刻はなかなかよく出来ているように素人《しろうと》の私にも思われますが……あなたが狆を彫刻なさると、もちっと早く知ったら、ちょうど好《い》いことがあったのにまことに残念なことをした」
と、さも残念そうに合田氏はいっているので、私はそれはどういうことですと問いました。



底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
   1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
   1929(昭和4)年1月刊
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito

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