りに参り、遠い所でもないので暫くすると抱いて帰りました。

 二、三日は座敷に置いて狆の挙動を眺めていた。普通《なみ》の犬ころ[#「ころ」に傍点]などと異《ちが》って品の好《よ》いものでなかなか賑やかで愛嬌《あいきょう》がある。そこで第一に一つ彫り初めました。
 今日のように脂土《あぶらつち》などで原型をこしらえるのでなく、行きなり木をつかまえて彫るのです。何んでも十日という日限りもあることで、一つ写して置けば、後はまた出来るからとまず鑿打《のみう》ちに掛かり四、五日|経《た》って概略《あらまし》狆が出来、これから仕上げに掛かろうという所まで漕《こ》ぎつけ、モデルの本物の狆と比べて眺めて見ると、どうやら狆に似ているようである。まずこれならと思って、なお、きまり[#「きまり」に傍点]所など仔細に観《み》ている所へ、かねて懇意の合田義和《ごうだよしかず》氏が計らず来訪されました。この人はこの前話した漢法の名医で私の難病を癒《なお》してくれた人であります。
「どうですね。お身体《からだ》は悉皆《すっかり》よくなりましたか」と合田氏はいう。
「お蔭様で。この通り仕事も出来るようになりました。全
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