》といい、旗下の奥さんとして恥ずかしからぬ相貌《そうぼう》の方で、なかなか立派な婦人でありました。お綾さんも、母親に似てまことに美しかったが、もちっと丸顔であった。後に歳を老《と》られてからの写真を新聞などで見ても、やはり、その時の悌《おもかげ》がよく残っておって、母人《ははびと》よりも丸い方に私は思ったことだが……それはとにかく、三枝未亡人は、このお綾さんのことを心配されて、よりより師匠へ縁談のことについて相談をしておられました。
 或る時も三枝未亡人が駒形《こまがた》の師匠の宅へ見えられ、娘のことについて師匠に相談をされている。
「……今日では、もはや、武家、町人と区別《けじめ》を立てる時節でもなく、町家でも手堅い家であり、また気立ての好い人物《ひと》ならば、綾を何処《どこ》へでもお世話をお願いしたい。貴君《あなた》は世間が広いから、好い縁があらば、どうか、おたのみします」
など話しておられる(私はまだ小僧時代であるが、店のことや、奥のことも走り使いをしている時のことで、よくその消息を知っている)。それで、師匠もその事について心配をしておられました。

 ここにまた師匠の華客先《と
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