に友人があってその人の手にあらゆる親切と同情をもって看護されたことは全く私の幸福でありました。
しかし、私は、既に世の中に顔を出して来てはおったものの、まだまだ木彫りが行われているという世の中にならず、相更《あいかわ》らずの貧乏でありますから、医師にお礼をしたくてもするわけに行きません。大病で、三ヶ月も床に就《つ》いていることだから、生活には追われて来る。知人などの見舞いのものでその日を過ごしていたような有様でありました。けれども、どうにか都合をして薬代だけは払いましたが、合田氏の啻《ただ》ならぬ丹精に対しては、まだお礼が出来ぬので、私はそれを心苦しく感じている中《うち》段々身体も元に恢復《かいふく》して参って、仕事も出来るようになりましたので、日頃念頭を離れぬ合田氏への御礼のことをいろいろ考えましたが、病後の生活にはこれといって適当な方法も考え附かず心ならずも一日一日と送っておりました。さりながら、人の普通《なみ》ならぬ親切を受けてそのままでいることはいかにも気が済まぬ。何か形をもって謝礼の意を致したいものであると私は切に感じていたことであった。
これより先、私は一人の道具商
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