に賛成して、組合へ這入《はい》るとなると、平生《ふだん》から仕事の上で侮蔑《ぶべつ》している所の谷中派の支配を受けねばならない。これは郊外へ退去するよりも一層馬鹿気ている。それもまあ好いとしても、修業盛りの弟子たちを何にも圧迫して叱責《いじ》めることはない。かれこれ、この組合規則なるものは甚だ不都合千万なのである。これはとても這入るわけには参らんというのがこの派の人たち一般の意向でありました。
しかしながら、既にこうして、府からの許可を得て組合規則を出して来たものに対して、不賛成であるからといって、反抗の趣意を申し立てるにしても、この際、反抗するだけの何らか確たる材料がないことにおいては、対抗的に運動することも出来ないということに気が附くと、皆々気を揉《も》んで、どうしたら宣《よ》かろうかとよりより協議するような有様であった。
すると、ここに金田兼次郎という人が一つの意見を提出しました。金田氏は元《もと》刀剣の鞘師《さやし》でありましたが、後牙彫商になって浅草|向柳原《むこうやなぎわら》に店を持っている貿易商人で、主《おも》に上等品を取り扱っているので、先生株の牙彫の人たちと懇意
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