えば、私もまた、お作にはかねてから敬服して、どういう方であろうか、さぞ立派な人であろうと心に床《ゆか》しく思いおったのに知らぬこととて、毎度仕事場をお見舞い下された方が石川さんあなたであったとはまことに奇縁。私は本懐至極に思いますなど、逢ったその日その時から、一見旧知という言葉をそのままに打ち解け、互いに仕事の話など根こそげ話をして時の経《た》つのを知らない位でありました。

 石川氏は既に一流の大家であって、堂々門戸を張っている当時の流行《はやり》ッ児《こ》ですが、それでいて言葉使い、物腰、いかにも謙遜《けんそん》で少しも高ぶったところがない。私はいうまでもなく、まだ無名の人間、世に売れている人たちの仕事場などに比べては見る蔭《かげ》もないほどの手狭《てぜま》な処、当り前ならば、こっちから辞《ことば》を低くして訪問もすべきであるのを、気軽に此所《ここ》へわざわざ訪ねて来てくれられた人の心も嬉《うれ》しいと、私は茶など入れ、菓子などはさんで待遇《もてな》す。互いに話は尽きませんのでした。
「高村さん。私は随分前からあなたを知っていますよ。この宅へ、お出《い》でになってからのお顔|馴染《
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