が私に逢いたがってるってんですか。そうですか。石川さんならまだ逢ったことはないが、あの人の仕事は私も知ってる。今の世にどうも恐ろしい人があるもんだと実は私は驚いているんだ」
「あなたも石川さんの仕事を感心していますか」
「感心どころのことではない。敬服していますよ。私とは違って牙彫りの方だけれども、当今、日本広しといえども、牙彫り師としてはあの人の右に出るものは恐らくありますまい。私は博覧会の薄肉の額を見た時から、すっかり敬服しているんだ。その石川さんが私に逢いたいなんて……そんならこっちからお目に掛かりに行きたいもんです。案内してくれますか」
「そりゃ、案内するのは訳はありませんが、しかし、高村さん、そりゃいけませんよ。先方《むこう》があなたに逢いたがって、是非一度引き逢わせてくれといってるんです。先方からいい出したことだから、先方がこっちへ出向いて来るのが順序ですよ。何もあなたの方から出掛けて行かなくても、先方がやって来ますよ。で、あなたは逢いますね」
「逢いますとも、……私もお目に掛かりたいもんだ。あの石川さんなら」
「では、私が今石川さんを貴宅につれて来ましょう。これは話がおも
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