あり、これもなかなかすぐれていると感服して見たことで、光明氏なり、俊明氏なり、いまだ逢ったこともなく顔は見知らぬが定めし立派な人であろうと思うておりました。
 光明氏はその頃下谷|竹町《たけちょう》の生駒《いこま》様の屋敷中に立派な邸宅を構え、弟子の七、八人も使っておられ、既に立派な先生として世に立っておられたのであるが、そんなことまではその時は知らず、ただ、名前だけを記憶に留めておったのでした。

 私は相変らず降っても照っても西町の仕事場でコツコツと仕事をやっていた。
 すると、時折ちょいちょい私の仕事場の前に立ち留まって私の仕事をしているのを見ている人がある。時には朝晩立つことがあるので、私も気が附き、その人の人品《じんぴん》を見覚えるようになった。その人というのは小柄な人で、髯《ひげ》をちょいと生《は》やし、打ち見たところお医師《いしゃ》か、詩人か、そうでなければ書家画家といったような風体で至極人品のよい人である。格子《こうし》の外から熱心に覗《のぞ》いて見ている。私も熱心に仕事をしているのだが、どうかしてちょっと頭を上げてその人の方を見ると、その人は面伏《おもぶせ》なような顔
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