幕末維新懐古談
石川光明氏と心安くなったはなし
高村光雲
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)その中《うち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)心|私《ひそ》かに
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さて、話は自然私がどうして石川光明氏と交を結ぶことになったかということに落ちて来ます。それを話します。
明治十五年、私は西町三番地の家で毎日仕事をしておりました。仕事場は往来を前にした処で、前述の通りのように至って質素な、ただ仕事が出来るという位の処であった。
その頃、木彫りは衰え切っている。しかし牙彫りの方は全盛で、この方には知名の人が多く立派に門戸を張ってやっている。その中《うち》で私は石川光明氏の名前は知っておりました。それは明治十四年第二回勧業博覧会に同氏の出品があって、それを見て、心|私《ひそ》かに感服したので能《よ》くその名を覚えていました。
同氏の出品は薄肉の額で、同氏得意のもので、世評も大したものであったらしく、私が見ても牙彫《げちょう》界恐らくこの人の右に出るものはなかろうと思いました。しかし、その人は知らない。またこの時に島村俊明氏兄弟の出品も
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