幕末維新懐古談
東雲師の家の跡のことなど
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)後《あと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一時|瓦斯《ガス》株
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 ついでながら師匠東雲師の家の跡のことをいって置きましょう。
 師が没せられて後私ら兄弟子三枝松政吉氏が後《あと》のことを私に代ってやったことは、先日話しました。東雲の二代目になる息子は、雷門の焼けた丑年生まれで、師の没せられた時は十四、五、名を栄吉《えいきち》といって後に二代東雲となりましたが、この人、気性は父に似て至って正直で、物堅い人、また甚だ楽天家でありましたが、かなり酒量の強い方の人であった。しかしそのため他人に迷惑を掛けるというようなことは決してなかった。一時|瓦斯《ガス》株を買って大いに儲《もう》け、従前よりも一層派出にやっていた時代もあったが、その後また都合が悪くなったということであった。あるいは株の下落したためであったことであろう。その中、未亡人も没し、政吉氏も亡《な》くなって、とても大店《おおみせ》がやって行けなくなり、手元は不如意《ふにょい》がちでついに店を
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