幕末維新懐古談
歳の市のことなど
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)歳《とし》の市《いち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)縁日|商人《あきんど》
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 それから、もう一つ、歳《とし》の市《いち》をやったことがあります。
 歳の市の売り物は正月用意のものです。父の売ったものはこれは老人自身のひと趣向なので巾八寸位の蒲鉾板《かまぼこいた》位のものに青竹を左右に立て、松を根じめにして、注連縄《しめなわ》を張って、真ん中に橙《だいだい》を置き海老《えび》、福包み(榧《かや》、勝栗《かちぐり》などを紙に包んで水引《みずひき》を掛けて包んだもの、延命袋《えんめいぶくろ》のようなもの)などを附けて門《かど》飾りにしたものです。
 これは、大小拵えた。ちょっと床《とこ》の間《ま》などに置いても置かれるもので、どっちかといえば待合式《まちあいしき》のもので待合の神棚とか、お茶屋の縁喜棚に飾ると似合わしいものです。
 歳の市の方は酉の市とは違い、景気附け一方でする気合い商売でないからです。つと質素になります。縁日|商人《あきんど》の方で、「
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