はこの仕事を三河屋から請け負い四、五年間も続けてやりました。
 それで、生活の方も豊かではないが困るということはなく、まず研究かたがた、ゆっくりと腰を据《す》えてやっておりました。ちょうど、明治十六年頃までこの仕事を続けておりました。その頃三幸の支配人で、現今|湯島天神《ゆしまてんじん》町一丁目におられる草刈豊太郎《くさかりとよたろう》氏には色々御世話になりました。
 かれこれしている中に、内地向きの仕事もぽつぽつあるようになりました。また、私の彫刻の技倆もどうやら世間でも見てくれるようになり、生計の方においても順調の方へ向いて行くような有様となったのであります。で、思うに、明治八、九年から十五、六年頃までの七、八年間は、私に取っては実際経験によって修業の出来た時代で、生活そのものは苦境であったが、個人としての内容を豊富にするにはまことに適当の時代であったのでありました。



底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
   1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
   1929(昭和4)年1月刊
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko sai
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