幕末維新懐古談
実物写生ということのはなし
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)到《いた》った

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)犬一匹|描《か》いて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あおり[#「あおり」に傍点]
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 明治八、九年頃は私も既に師匠の手を離れて仏師として一人前とはなっておりましたが、さて、一人前とは申しながら、まだ立派に世に立つに到《いた》ったとはいえない。師匠の家は出たけれども、自分の家《うち》から師匠の家に通って仕事をしておりました。
 ところが、その時分は前に話した通り仏教破壊のあおり[#「あおり」に傍点]を食って仏に関係した職業は何事によらず散々な有様でありますから、したがって仏師の仕事も火の消えたようなことになりました。この社会の傾向を見ていると、私は、どうも考えぬわけには行かぬ。師匠東雲師のように既に一家を成して東京でも一、二の仏師と知られていれば、いかに社会が変化して来ても根柢《こんてい》が固まっているから、さほどに影響を受けもしません。また、受けるにしてもそれに受け
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