幕末維新懐古談
私の守り本尊のはなし
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)申し出《い》でました

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五体|揃《そろ》って
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 さて、五体の観音は師匠の所有に帰し「まあ、よかった」と師匠とともに私は一安心しました。しかし、私にはここで一つの希望が起りました。私は、数日の後、師匠に向い、その望みを申し出《い》でました。
「師匠、あの観音五体の中で一体を私にお譲り下さいませんか。私はそれを自分の守り本尊《ほんぞん》として終生祭りたいと思うのです。もっともお譲り下さるならば、師匠がお求めになった代を私はお払いしますから」
 私は思い切ってこういいました。
 私がそれを熱望した心持は、最初百観音が灰にされるということを聞いて、嘆き悲しみ、懐かしみ、惜しみした心持と少しも変りはないのでありました。
 こう私に望まれて見ると、師匠は五体|揃《そろ》っているのですから、何んとなく手放しにくいような容子《ようす》が見えましたが、元々私がこの事件には先鞭《せんべん》を附けている手柄もあることを師匠も充分承知している
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