ことだから、
「そうか。それは譲って上げてもよい。だが、いったい、何の観音をお前は望むんだね」
こういって師匠はその中で特に精巧に刻まれてある細金《ほそがね》の一体を取り上げ、
「これを欲しいというのかね」
といいました。
「いいえ、私のおねだりするのはそれではありません。これです」
私の撰《えら》み取ったのは、松雲元慶禅師のお作でした。
「そうか。それを欲しいのか。じゃ、譲ってやろう。お前が一生祭って置くというのなら……」
師匠は快く私の請いを容《い》れてくれました。で、私は一分二朱を現金で払った時の嬉《うれ》しさといってはありませんでした。
もうこの元慶禅師のお作のこの観音は私の所有に帰したのだと思うと、心が躍《おど》るようでした。私は喜び勇んでそれを我が家へ持って帰りました。
それから、私は、右の観音を安置して、静かにその前に正坐《すわ》りました。そして礼拝しました。多年眼に滲《し》みて忘れなかったその御像《おんぞう》は昔ながらに結構でありました。
けれども、お姿に金が附いていたためにアワヤ一大御難に逢わされようとしたことを思うと、金箔のあるのが気になりますから、い
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