行きたくなりました。
 と、いって、私は、よし、その現場へ飛び込んだにしろ、その急場を扶《すく》うには是非入用な金銭を持っておらぬ。私に金銭などのある時節でありませんから。けれども、そんなことは問題ではない。何んでもあれ、とにかく、その場へ行って見なければ気が済まないので、私は立ち上がりました。
 そして師匠の妻君へ、理由を話し、ちょっとの暇を下さいと申した。すると、妻君も驚いた顔をして、それでは行ってお出《い》で、師匠が帰ったら、その事を話すから、という。では、どうかそう願いますと、私は師匠の家を飛び出しました。

 駒形から、枕橋までは、どれだけの道程《みちのり》でもない。私はドンドンと走って行く……
 その間にもまた考えましたことは、こんな独断《ひとりぎめ》なことを師匠の留守にして、もしや、師匠が帰って、馬鹿な奴だといって叱《しか》られるか知れない。というような心配を繰り返しましたが、叱られたらそれまでのことだ、ともう度胸も据《すわ》ってしまって、私は間もなく下金屋の店へ行き着きました。
 それから、私が、下金屋の主人と仲間とが三、四人一緒になっている前へ行って、私の来意を語り終
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