るまでには、随分|間《ま》の悪い思いをしました。というのは東雲師自身がやって来たのなら話になるが、弟子の私では先方の信用がさらにないからです。先方は何んだか面倒臭そうに、いくらか軽蔑《けいべつ》したような顔をして碌《ろく》に話しを聞いてもくれません。けれども、私は、そんなことに閉口《へいこう》してはいられない場合ですから、ただ、もう百観音の運命が気掛かりでたまらないのですから、こう主人に話し掛けました。
「……とにかく、私に、あの俵の中のお姿を二、三体見せて下さい」
 すると、そんなことをされていじくら[#「いじくら」に傍点]れちゃ、仕事の邪魔になって困るという顔をしている。中には、見るだけなら見たって好《よ》かろう、と口を添えてくれたものもあった。私は彼らの返事は碌にも聞かず、もう脚《あし》がずんずん俵の傍に寄って行き、手は早くも荒縄を解いていました。
 ところで、私の考えでは、この百観音の中に、優《すぐ》れたものが五、六体ある。それを撰《え》り出そう。まずそれを撰り出すことが何よりも肝腎だ、とこう思いましたから、あっち、こっちと俵の縄をほぐしては調べて行くと、かねて目を附けているも
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