のが出て来る。
「オオ、これだ」
と私の悦びは飛び立つ位。胸はどきどきします。また、別の俵を開《あ》けて見ると、天冠、台坐が脱《はず》れ、手足などが折れたりしたなりで出て来る。
「オオ、これだ。此処《ここ》にもあった」
と、私はその都度張り合いになって、一生懸命に探《さが》し廻る。
 私の見附け出した観音様の中には、細金《ほそがね》の精巧なものがある。これは京都仏師|七条左京《しちじょうさきょう》の作。または天狗長兵衛と綽名《あだな》のある名工の手の籠《こ》んだ作がある。それから羅漢仏師松雲元慶禅師の作がある。けれども、それらが御首《みぐし》や、手や脚や、台坐、天冠などが手荒らに取り扱われたこととて、ばらばらになっているのを、私はまた丹念に探し廻って、やっと、どうにか揃えました。
 そうこうしている中《うち》に、午《ひる》になる。私がこうやって五、六体を撰り出したことには理由《わけ》のあることだ。それはどうにかして、これだけは焼いてもらわない算段をしようというのである。師匠が帰って来るまで、とにかく、一時手をひかえてもらおうという決心である。で、その旨を先方に話すと、先方は、いじくり廻された上に、こんなことを掛け合うのですから、さらに嫌な顔をしている。
「そんな悠長《ゆうちょう》なことはいっていられない。私たちはこれから焼こうというのだ。飛んだものが飛び込んで仕事の邪魔をして困るじゃないか。おい。そろそろ仕事に掛かろうじゃないか」
「まあ、そういわずに、この撰り出した分だけは手をつけずに置いて下さい。お願いですから」
など、押し問答している所へ、天の祐《たす》けか、師匠の姿が見えました。
「師匠が来た。まあ、よかった」
と思うと、私は急に安心しました。
「幸吉か、お前よくやって来てくれた。俺も心配だから飛んで来たんだ。家《うち》で様子を聞くと直ぐに……」
 師匠は私にそういってから、下金屋と挨拶《あいさつ》をしている。かねてから、下金屋は師匠を能《よ》く知っているので大変丁寧になる。
「先刻《さっき》からお弟子さんがやって来て、大分撰り出しましたよ」
などいっている。
 私は師匠に、名作の分だけ五、六体は撰り出したことを話すと師匠が、
「幸吉、もう好《い》いにしようよ。そんなに買い込んだって売れやしないぜ。お前の撰り出した名作五体だけにして置こう。後《あと》は残念な
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