幕末維新懐古談
身を引いた時のことなど
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)後《あと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)師匠|歿後《ぼつご》
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 さて、これから後《あと》の始末をつける段となるのでありますが、急に師匠に逝《ゆ》かれては、どうして好いか方角も付きません。しかし相更《あいかわ》らず仕事だけはやらねばならぬから、まずこの方のことを引き締めて掛かることにしました。
 ここでちょっと思い出しましたが妙なお話がある。それは師匠が生前丹精して寛永通宝の中から、俗に「耳白《みみしろ》」という文銭を選《よ》り出しては箱に入れて集めておられ、それが貯《たま》り貯りして大変な量《かさ》になっていたのを、蔵の中にある穴蔵の中へ入れてありました。それを奥の人たちが師匠|歿後《ぼつご》早々取り出し調べて見ると、勘算してちょうど五十円ほどありました。一文銭の五十円ですから、随分大した量、ちょっとどうするにも困るようなわけでありましたが、ちょうど彼《か》の亀岡氏から用立てて頂いた葬式費用の五十円という借用の方へ、亀岡氏の望みでその文銭五十
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