す……」
と訳が分らんからいいますと、
「何をやったって、大したことをやったじゃありませんか。君の観音は竜紋賞を得たのですよ」
「そうですか。その竜紋賞というのはどういう賞なのですね」
など、私はさすがに自分のことの話であるから聞いたりする。岡田の次男は予《かね》てから、隣りずからのことで、私が白衣観音を製作していたことなどを知っており、師匠の代をやっていた種を知っていることだから、私の手柄のように褒《ほ》めそやしている。そして、今日の新聞に(今の号外のようなもの)その事が載っているが、賞牌の一番が竜紋賞で、二番目が鳳紋《ほうもん》賞、三番目が花紋《かもん》賞というのです。君の観音は一番の賞牌ですよ、など物語る。私は岡田のいうことばかりでは信がおけないから、やがて蔵前へ出掛けて行くと、師匠は帰っておられた。
「今日《こんにち》、賞牌をお貰いなすったそうですね」
私が訊《き》きますと、
「ふむ。竜紋賞というのを貰って来た。竜紋というのが一番好いのだそうだ」
と、師匠はいっていられるが、別段その事については気にも留めておられぬような様子であるから、私もそれ切りで家へ帰って来ました。
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