また他日に譲るとしまして、とにかく、博覧会も滞りなく半ば過ぎた頃、或る日、当会から師匠の許へ呼び出しが来ました。それは何時《いつ》何日《いつか》に出陳の品に賞が附いて、その賞牌の授与式があるのだということです。しかし、師匠、私なども、賞が附くというようなことを一向知らぬ。ただ、拵えたものを出して置いただけのものであったが、師匠は呼び出しが来たので、当日は袴羽織で(師匠の家の紋は三《み》ツ柏《がしわ》であった)上野の会場へ出掛けて行きました。授与式がどういう有様であったかは私は知る由もないが、受けた賞牌は竜紋《りゅうもん》賞であった。ところが、またその竜紋賞が好いのか悪いのかも師匠は知らない。くれるものを貰って来たという有様であった。

 当日は、私は何かの都合であったか堀田原《ほったわら》の家に休んでおりました。日暮れ少し前頃に、私の家の表の這入《はい》り口に地主の岡田というのがあって、その次男が私の宅へ飛び込んで来て、突如《だしぬけ》に、
「高村さん、あなたはえらい[#「えらい」に傍点]ことをやったね」
と頓狂《とんきょう》な声でいいますので、私はびっくりして、
「何を私がやったんで
前へ 次へ
全8ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング