幕末維新懐古談
徴兵適齢のはなし
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中《うち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)姉|悦《えつ》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)徴兵よけ[#「よけ」に傍点]
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 とかくする中《うち》、ここに降って湧《わ》いたような事件が起りました。
 明治六年に寅歳《とらどし》の男が徴兵に取られた。それはそれ切りのことと思って念頭にもなかった。その当時の社会一般に人民が政治ということに意を留めなかった証拠で、こういう事柄に関する世の中のことは一向分らぬ。もっとも徴兵令はその以前に発布されて新しい規則が布《し》かれていたのであろうが、新聞といっても『読売《よみうり》』が半紙位のものであるかないかというような時代、徴兵適齢が頭の上に来ていることに私は気が附かなかった。
 ところが、明治七年の九月に突然今年は子歳《ねどし》のものを徴集《と》るのだといって、扱所といったと思う、今日の区役所のようなものが町内々々にあって、其所《そこ》から達《たっ》しが私の処へもあったのです。なるほど
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