、その光に、わたしの東雲《とううん》の雲の字を下に附けて光雲としたがよろしかろう。やっぱり幸吉のコウ[#「コウ」に傍点]にも通《かよ》っているから……」
と申されました。
この事は私も不断から、そうも考えたり、また、その考えを師匠にも話したことなどあったのでしたが、今日この場で、師匠は改めて、私に光雲の号を許してくれられてかくいい渡されたのでありました。私は無論のこと、母も大いによろこび、お礼を申し述べ、その日は母と一緒に、十一年ぶりで我家に帰って父にもその由を委《くわ》しく話しました。父も非常に喜びました。
しかるに人情というものはおかしなもので、年季が明けて一旦|我家《わがや》に帰っては来ましたが、元来、十二歳から十一年間、師匠の家におり、ほとんど内の者同様にされ、我が家のように思っておったこととて、私の心は生みの親よりもかえって師匠になずんでおります。それに家《うち》に帰っても、父の商売は違っておって、何となく私の気持が自分の家に落ち附かぬ。一日師匠の家におりませんと、どうも工合が悪いような気持であります。それで早速、師匠の家へ出掛けて行きますと、師匠は、これから先どうする考
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