は少時《しばらく》も心を油断してはならぬ。油断は大敵で、油断をすれば退歩をする。また慢心してはならん。心が驕《おご》れば必ず技術は上達せぬ。反対に下がる。されば、心を締め気を許さず、謙《へりくだ》って勉強をすれば、仕事は段々と上がって行く。また、自分が彫刻を覚え、一人前になったからといって、それで好いとはいわれぬ。自分が一家を為《な》せば、また弟子をも丹精して、種子《たね》を蒔《ま》いて、自分の道を伝える所の候補者をこしらえよ。そして、立派な人物を自分の後に残すことをも考えなくてはならぬ。お前の身の上についてはさらにいうこともないが、これだけは技術のために特に話し置く」
こう東雲師は諄々《じゅんじゅん》と私に向って申されました。私は、いかにも御もっとものお話|故《ゆえ》、必ず師匠のお言葉を守って今後とも勉強致します旨を答えました。
すると、師匠は、至極満足の体でいられたが、さらに言葉を継ぎ、
「お前の名前のことについてであるが、今後はお前も一人前となることゆえ、名前が幸吉《こうきち》ではいけない。彫刻師として彫刻の号を附けねばならぬ。ついては、お前の幼名が光蔵《みつぞう》というから
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