幕末維新懐古談
その頃の消防夫のことなど
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)彼《か》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)直接|消火《ひけし》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)を[#「を」に傍点]組
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 江戸のいわゆる、八百八街には、火消しが、いろは四十八組ありました。
 浅草は場末なれど、彼《か》の新門辰五郎《しんもんたつごろう》の持ち場とて、十番のを[#「を」に傍点]組といえば名が売れていました。もっとも、辰五郎は四十八組の頭《かしら》の内でも巾の利《き》く方でした。
 いうまでもなく、消防夫《ひけし》は鳶《とび》といって、梯子《はしご》持ち、纏《まとい》持ちなどなかなか威勢の好《い》いものであるが、その頃は竜吐水《りゅうどすい》という不完全な消火機をもって水を弾《はじ》き出すのが関《せき》の山《やま》で、実際に火を消すという働きになると、今日から見ては他愛のない位のものであった。竜吐水の水はやっと大屋根に届く位、それも直接|消火《ひけし》の用を足すというよりは、屋根に登って働いている仕
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