幕末維新懐古談
焼け跡の身惨なはなし
高村光雲
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)扶《たす》けられた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夜具|蒲団《ふとん》
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帰ったのは九ツ過ぎ(十二時過ぎ)でした。さすがの火事もその頃は下火となって、やがて鎮火しました。
火事の危険であった話や、父に扶《たす》けられた話や、久方《ひさかた》ぶり、母との対面や何やかやで、雑炊《ぞうすい》を食べなどしている中《うち》、夜は白々《しらじら》として来ました。
さて、翌朝になり、焼け跡はどうなったか。師匠の家の跡は……と父とともに心配をしながら行って見ると、師匠の家はない。焼け跡に、神田《かんだ》の塗師重《ぬしじゅう》の兄弟と、ほかに三人ばかり手伝いがボオンヤリと立っている。
互いに顔を見合わせて、何よりもまず昨夜の話、師匠はこれこれ、我々はこれこれと父が物語る。塗師重兄弟も嘆息しながら、
「まずお互い様に生命《いのち》に別条なく不幸中の幸い……しかし、我々は逃げ損《そ》くなって実に酷《ひど》い目に逢《あ》いやした。逃げようといって、蔵前の方へも逃
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