》、私を突き飛ばして、
「逃げなきゃ死んでしまうぞ。早く逃げろ」
と、恐ろしい見幕で叫びながら、また私を突き出してくれました。私は突き飛ばされたのだか、それが突き出してくれたのだか、そんなことも夢中で、ともかく自分の身体が荷物の側から大分離れた所へ弾《はじ》き出されていて、二度とは、もう荷物の側へも行けないので、とうとう断念《あきら》めて何処《どこ》かへ逃げて行こうと決心しました。
しかし、逃げるにしても、何処へ逃げて行って好いか分りません。とにかく、師匠や親の行った方角へと心差して逃げ道を雷門方向に取りました。
一方、私の父は、どうしたかというと、大混雑の中で、師匠や政吉を見失い、自分一人となると、さあ、子供のことが案じられて来ました。万年屋の前に荷物の番をさせて置いた悴《せがれ》の身の上が気遣《きづか》われて来ました。一念が子の上に及ぶと、兼松は顔の色が変り、必死となって人波を掻《か》き分け、元の道へ取って返しました。しかし、荷物の山と人波に遮られ、あがいても、百掻《もが》いても人の先へは出られない。気が急《せ》けば急くほど身が自由にならないので、これではいけないと、荷物の上
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