匠や親からいいつかった荷の番の責任を感じている上に、もう一度引っ返して来るから、といって出て行った言葉もあることとて一生懸命に荷物を守っておりました。
すると、見る見る中《うち》に、両側の家は焼け落ちて、今にも万年屋の屋根を火先が舐めそうになって来る。と、火消しの一群が火の粉を蹴って駆け来り、その中の一人が、長梯子《ながはしご》を万年屋の大屋根の庇《ひさし》に掛けました。そうして、するすると屋根へ上って行きました。
「おい、お前、こんな所に何をまごまごしてるんだ」
一人の火消しは私を見て怒鳴りました。
「私は荷物の番をしてるんだ」
そういいますと、
「何、荷物の番をしてるんだ? 途方もない。ぐつぐつしてると、荷物より先に手前の生命《いのち》がないぞ、早く逃げろ、早く逃げろ」
そう怒鳴りつけますが、さりとて、私は逃げ出すわけには行かない。師匠の預かり物の番をしているので、師匠や親が、もう一度|此所《ここ》へ帰って来るまでは、何がどうあろうと踏み止《とど》まろうと、火消しの怒鳴るのをも係《かま》わず、やはり荷物へ噛《かじ》り附いていました。
すると、仕事師の一人が、突然《いきなり
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