が、その間は横丁の角々《かどかど》は元より到《いた》る処荷物の山で、我も我もと持ち運んだ物が堆高《うずたか》くなっている。それを火勢に追われて逃げて来る人々は、ただ、一方の逃げ口の吾妻橋方面へと逃げ出そうと急《あせ》っている。片方は大河《おおかわ》で遮《さえぎ》られているから、この一方口《いっぽうぐち》へ逃《のが》れるほかには逃げ道はなく、まるで袋の鼠といった形……振り返れば、諏訪町、黒船町は火の海となっており、並木の通りを荷物の山を越えて逃げ雷門へ来て見れば、広小路も早《はや》真赤《まっか》になって火焔《かえん》が渦《うず》を巻いている。雷門から観音堂の方へ逃げようとしても、危険が切迫したので雷門も戸を閉《し》めてしまったから、いよいよ一方口になって、吾妻橋の方へ人は波を打って逃げ出し、一方は花川戸、馬道方面、一方は橋を渡って本所へと遁《に》げて行く。その遁げる人たちは荷物の山に遮られ、右往左往している中に、片ッ端から荷の山も焼け亡《う》せて跡は一面に火の海となるという有様……ただ、もう物凄い光景でありました。
こんな工合で、風が真西に変って不意打ちを食ったのと、大河に遮断《しゃだ
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