好《い》い小僧だ……俺が丹精して仕込んでやろう」など師匠は申していられる。子供心に初めて師匠との対面|故《ゆえ》、私はなかなか緊張しておりました。すると、師匠が、側《そば》にあった人物の置き物を私に指《さ》し、「お前、この人を知ってるか」と訊《き》かれたので、私はオッカナビックリ見ると、長い髯《ひげ》が胸まで垂《た》れ、長刀《なぎなた》を持っているので、「この人は関羽《かんう》です」と答えました。
 師匠はニッコリ笑い、「よく知っていたな、感心々々」と褒《ほ》められたのでした。師匠はさらに、「手習いをしたか」という。私は母から少しばかり手解《てほど》きされて、まだ手習いというほどのこともしていないので、「手習いはしません」というと、「そうか。手習いはしなくとも好い。字はいらない。職人はそれで好いのだ」といわれました。「算盤《そろばん》は習ったか」と次の質問に「ソロバンもまだ知りません」と答えました。「算盤もいらない。職人が銭勘定するようじゃ駄目だ、彫刻師として豪《えら》くなれば、字でも算盤でも出来る人を使うことも出来る。ただ、一生懸命に彫刻《ほりもの》を勉強しろ」というようなことで、極
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