い》づるは、「さて、師匠、私も御丹精によってようやく一人前の仏師と相成りましたが、お別れに臨み御高恩を幾久しく記念致したいと存じますによって、何卒《どう》か師匠のお名の一字をお貰《もら》い致したい」と申しました。
「それはいと安いこと、然《しか》らば鳳雲の雲をお前に上げよう。藤次郎の藤を東《ひがし》に通わせて、今後東雲と名乗ったがよかろう」とのことに、東雲はよろこび、なお、言葉を亜《つ》ぎ、
「お言葉に甘えるようでございますが、おついでに、師匠の姓の一字をもお貰い致したい。高橋の高を頂いて旧姓奥村の奥と代え高村と致し、高村東雲は如何《いかが》でございましょう」という。「それは面白い。差し閊《つか》えない。それがよかろう」ということになって奥村藤次郎はそこで高村東雲となって仏師として世に現われたのでありました。
その頃は戸籍のことなども、至極自由であったから、姓を変じても、別にやかましくいわれもしませんでした。
さて、東雲師は、いよいよこの名前で浅草|蔵前《くらまえ》の森田町へ店を出しました。すなわち仏師の職業を開いたのである。
東雲師はまだその頃は独身であった。兄が一人あり、名を
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