幕末維新懐古談
その頃の床屋と湯屋のはなし
高村光雲
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)髪結床《かみゆいどこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)鏡|研《と》ぎ
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床屋の話が出たついで故、ちょっと話しましょう。当時の髪結床《かみゆいどこ》は、今のように小《こ》ざっぱりしたものではなく、特にこういう源空寺門前といったような場末では、そりゃ、じじむさいものでした。
源空寺門前という一町内には、床屋が一軒、湯屋《ゆや》が一軒、そば屋が一軒というようにチャンと数が制限され、その町内の人がそのお華客《とくい》で、何もかも一町内で事が運んだようなものであります。で、次の町内のものが、その床屋へ飛び込むと、変な顔をして謝絶《ことわ》ったりしたものです。
床屋はちょっと今のクラブのような形で、一町内の寄り合い所なり遊び場でありました。
床屋の主人は何んでも世話を焼いて、此所《ここ》で話が決まるという風。お祭礼《まつり》の相談、婚礼の話――夫婦別れの悶着《もんちゃく》、そんなことに床屋の主人は主となって口を利いたものです。
床屋は土間《どま
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