亡びゆく森
小島烏水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)俤《おもかげ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎日|殖《ふ》えて

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ひら/\と
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 伊勢山から西戸部の高地一帯(久保山を含んで)にかけて、昔は、可なりに深い森林があつたらうと思はれる、その俤《おもかげ》の割合に保存されてるのは、今私の住居してゐる山王山附近である、もとよりこれぞといふ目ぼしい樹木もなく、武蔵野や相模原に、多く見るやうな雑木林で、やはり楢《なら》が一番多く、栗も樫《かし》もたまには交《まじ》つてゐる。
 この頃のやうな若葉時になると、薄く透明な黄味を含んだ楢の葉が、柔々しい絹糸のやうな裏毛を、白く光らせて、あつちでも、こつちでも、ひら/\と波頭のやうに、そよ風に爪立つてゐる。傍に近寄つて見ると、土の匂ひのしさうな、黒ツぽくて浅い裂け目のある、無格好の幹から、滑べツこい灰白の小枝が、何本も出て、その小枝からは、鮮やかな薄緑の葉が、掌《てのひら》を返すやうに、取ツ組み合つて密集してゐる、同じ
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