限りの最大の線であろう。されば駿河湾の暖流|駛《は》しるところに近い浅間神社のほとり、※[#「木+解」、第3水準1−86−22]《かしわ》や、榊《さかき》や、藪肉桂《やぶにっけい》などの常緑|濶葉樹《かつようじゅ》が繁茂する暖地から、山頂近くチズゴケやハナゴケなど、寒帯の子供なる苔《こけ》類が、こびりつく地衣《ちい》帯に至るまでの間は、登山路として最も興味あるもので、手ッ取り早くいえば、一番低いところから、日本で一番高いところへ、道中する興味である。
一行の汽車は、箱根|火山彙《かざんい》を仰ぎ見て、酒匂《さかわ》川の上流に沿い、火山灰や、砂礫《されき》の堆積する駿河|小山《おやま》から、御殿場を通り越したとき、富士は、どんより曇った、重苦しい水蒸気に呑まれて、物ありげな空虚を天の一方に残しているばかり。手近の愛鷹《あしたか》山さえ、北の最高峰越前岳から、南の位牌《いはい》岳を連ぬるところの、鋸《のこぎり》の歯を立てた鋸岳や、黒岳を引っ括《くる》めて、山一杯に緑の焔《ほのお》を吐く森林が、水中の藻の揺らめくように、濃淡の藍を低い雲に織り交ぜて、遠退《とおの》くが如く近寄るが如く、浮か
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