て、桔梗《ききょう》がさき、萩がさき、女郎花《おみなえし》がひょろひょろと露けく、キスゲが洞燈《ぼんぼり》のような、明かる味をさしている。羽虫が飛び、甲虫が歩く。この旅行の目的は、八ヶ岳はもちろんとして、東麓の「美し森」の植物、殊に一千二、三百メートルから、一千七百メートル位までに、錦を流すところの、ドウダンツツジ、イワツツジ、山ツツジ、レンゲツツジなど石楠花《しゃくなげ》科に属するツツジ類の大群落を探るにあったが、雨が降りしきるので、飯盛《いいもり》山のもうろうたる姿を見たばかり、八ヶ岳へ寄りつけないので、「美し森」は来るべき紅葉の季節を待つことにして、佐久街道に出で、名高い念場ヶ原を、三軒家あたりまで横断し、また安都玉村の輿水氏宅まで引返し、昼飯《ひるめし》を済ませたりした。
私が八ヶ岳に興味を有するのは、あながちに富士火山帯の一高峰として、富士の姉妹山であるばかりでなく、そのくずれた火山形にある、即ち外輪山の火口壁が欠損して、最高点の赤岳をはじめ、硫黄岳、権現岳、擬宝珠《ぎぼし》岳、西岳などの孤立峰を作って、それが山名の八ヶ岳の数を、それぞれ満たしているが、富士の蓮華八葉の如き
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